デザイナーズ

■デザイナーズのはじまり
さて、第5回はちょっと今までとは毛色を変えて「デザイナーズ」について考えたいと思います。昨今のデザイナーズブームには正直食傷気味な私。今回は本来の「デザイナーズ」の意味について考えてみたいと思います。
私が初めて「デザイナーズ」という言葉を意識したのは1995年くらいだったと思います。雑誌「BRUTUS」で「デザイナーのつくった集合住宅特集」というようなタイトルの特集をやっていて、デザイン性に優れた賃貸集合住宅を数棟紹介していました。今では大御所ですが、谷内田章夫さんや早川邦彦さんの賃貸住宅が取り上げられていたように記憶しています。それまでは、住宅を「デザイン」という切り口で捉えるのは専門誌以外では皆無でした。ですから一般誌で行われたこの試みはかなり注目されました。それはもう目から鱗でした。「こんな家に住みたい!」と強く思ったものです。今ではあちらこちらで目にするような「ガラス張りのバスルーム」や「メゾネット住宅」なんていうのも、この特集で初めて目にしたと思います。
フォトジェニックな写真と、見たこともないような住空間。それがあまりにもキャッチーだったのか、まもなく「デザイナーズ住宅」という言葉をあちらこちらで見かけるようになりました。ブーム到来です。

■「デザイナーズ」の暴走
ブームも最初のうちはまだ良心的でした。「デザイナーズ住宅」という言葉も本来の意味で使われていたと思います。しかし、「デザイナーズ住宅」が売れるとみた不動産開発業者が目をつけてからは最悪でした。「デザイナーズ」という言葉は「デザイン」という本来の意味を失って一つのスタイルになってしまったのです。ガラス張りの風呂をつくって、メゾネットにして、ちょっとダークなトーンの内装にすれば「デザイナーズ」。そんな「デザイナーがデザインしたらこんな風になるんだろうなあ、と想像したデザイナーではない人がつくった」住宅が巷に溢れました。でも、それだってデザイナーという肩書きをもった方がつくっているわけで、その意味でデザイナーズと呼べないわけではない。デザインって言葉は実に寛容な言葉で、それが不動産業者にとっては都合が良かったのでしょう。「デザイナーズ」という冠をつけた、なんちゃってデザイナーズが横行するようになりました。

■デザイナーズって何?
そもそも「デザイナーズ住宅=Designed House」なわけです。デザインされた住宅です。では、デザインされた住宅って何なんだろう?ここで少し例をご紹介したいと思います。 (※1)
これは2000年代初頭にイデーアールプロジェクト社が手がけたASITIS芝という賃貸住宅です。ガラス張りのバスルームが部屋の中央に鎮座しています。ここで「ああ、お決まりのね。」と思わないでください。このようにデザインされた理由が大切なんです。答えから先に言えば、これはお風呂に入りながら映画を楽しむための部屋なんですね。(※2)
忙しい現代人にとって、映画をきちんと見る時間を確保するのは至難の業。それにお風呂もゆっくり入りたい。別々なら3時間。でも一緒にやれば2時間です。忙しい人がリラックスできる時間を持てるようにしよう。そんなストーリーがあるんです。「でも、そんな生活をする人は少ないだろう?」、「そんなに映画が好きではないし」と疑問を持つかもしれません。その通りです。これはそういうライフスタイルを送りたい人のためにデザインされた住宅ですから。逆に言えばデザイナーはガラス張りの風呂をデザインしているわけではないんです。「風呂に入りながら映画を見る」という「ライフスタイル」や「行為」をデザインしてるんですね。ここが大事です。ですから本質的に言えば「デザイナーズ」が広く一般的に受け入れられるわけが無いんです。飽くまでも非常に私的なものだと思うんですね。
もう一つ、これは<R-ROOMS浅草橋>という住宅です。こちらは広い玄関というか土間があり、そこに自転車がおいてあります。もう何を言わんとしているのかおわかりでしょう?(※3)

■行為や暮らしやライフスタイルをデザインするのがデザイナー
そう、R-STOREが考えるデザインというのは、見栄えのする仕上げで表層を飾ることではないのです。そのデザインによって実現されるライフスタイルや行為は何なのか?それこそがデザインであり、それをデザインできるのがデザイナーだと思っています。したがって、不動産開発業者が「デザイナーズ」という名の下に行っているものなんて、一見かっこよく見える素材の切り張りです。そこには、何のライフスタイルも行為も無い。何の意味もありません。

■自分の生活を自分でデザインしてみる。
たとえばこんな住宅があります。(※4) 一見無愛想なベニヤ貼りの壁面があります。これはデザイナーズですか?とてもデザイナーがデザインしているようには見えないかもしれません。実はこの住宅は壁一面に自由に釘をうったり、塗装したりできます。「自分のライフスタイルを自分でデザインする」という行為をデザインしていると言う意味ではこれも立派に意図的にデザインされた住宅、つまり本来の意味でのデザイナーズと言って良いでしょう。
そしてこれを自分ならどう使うか考えて見ます。
私だったら大事なサーフボードを引っ掛けておくラックをつくるかもしれません。まだスペースに余裕があれば次はギター、それにジョギング用のスニーカーラックも必要かもしれない・・・。そうやって自分の生活をどう快適なものにするか考え始めること、自分がどう暮らしたいか考えること、それがデザインの始まりですし、それを楽しめるあなたはもう立派なデザイナーだと私は思います。
さあ、あなたも自分の生活をデザインしてみませんか?

※1 ASITIS芝 中央にバスルームがあります。
※2 風呂に入りながら映画鑑賞できる。
※3 土間が広くとられています。
※4 ベニヤの壁は釘打ち、塗装、何でも来いです。