旧耐震と新耐震

先般の東日本大震災で被災された方には心よりお見舞い申し上げます。
また、お亡くなりになられた方のご冥福をお祈りいたします。

■旧耐震と新耐震 さて、今回の地震を境に「この建物は新耐震(基準に適合している)んですか?」と聞かれることがとても多くなりました。皆様も「この建物は旧耐震だ」とか「この建物は新耐震だから大丈夫だ」とか、今まで以上に各方面で耳にする機会が多くなったのではないかと思います。(耐震基準についてはこちらをご参考ください  "http://ow.ly/bB2Yb" )

でも、この旧耐震・新耐震って何がどう違うの?ということをちゃんと理解されている方は少ないと思います。私もその一人でした。「旧耐震よりも新耐震は厳しい耐震基準に照らし合わせて設計されているらしいから、より安全なんでしょ?」とか、「旧いより新しい方が強いに決まっている」その程度の理解です。また、wikipediaや専門ページを見ると、「地盤の影響や揺れの周期を考慮し・・云々」、「水平耐力が・・・云々」、まあ震度6が来ても倒壊しないようにしよう、ということになったのはわかりましたが、構造設計の考え方として何がどう変わったのでしょうか?それを私なりに噛み砕いてお話しようと思います。
最初にお断りしますが、私は一級建築士でもなければ構造の専門家でもありません。物理は大の苦手です。したがって、私の理解が根本的に間違っている可能性もあります。ただ、周囲にいる専門家にヒアリングして、それなりに自分で納得できたので、その経験をお話したいということだとご理解ください。間違いはご指摘いただければ幸甚です。

■建物の「しなり」
ここでは10階建てくらいのビルを想定して話を進めましょう。
地震が起こると地面が揺れます。それにあわせて建物も揺れます。
皆さんは1階と10階では、どちらの方が揺れが大きいと思われますか?
簡単ですね。10階です。これは何故か?建物はコンクリートという固い材料で出来ていますが、大きな力が加われば「しなり」ます。つまり、振幅は1階よりも「しなる」分10階の方が大きいのです。したがって10階の方が大きく揺れることになります。(※1)

旧耐震というのは、簡単に言えばこの「しなり」を計算に入れていない、というのが私の理解です。つまり1階も10階も同じ振幅であるという前提のもとに構造設計されていました。専門用語でいうとモーメントというのですが、1階でも10階でも揺れによる "http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88" モーメントは一定であるという前提であったということです。

しかし、実際は前述のように建物は「しなる」のです。1階よりも10階の方がより大きくゆれる。その「しなり」の起点(支点でしょうか)となる中間階にはより大きな力(モーメント)がかかることになります。
阪神淡路大震災で、旧耐震の建物の中間階が潰れてしまっている映像を目にした方も多いと思います。これは、「しなり」によって中間階に計算上で考えられているよりも最も大きな力(モーメント)が発生した結果、柱や壁が座屈・崩壊して、潰れたと理解することができます。逆に上層階は揺れこそ大きいものの、モーメントはそれほど大きくないために、潰れたり崩壊したりすることはありませんでした。

新耐震の設計基準は、その「しなり」を計算に入れたというのが、旧耐震と最も大きな違いです。その結果、中間階の耐力はより大きくなり、大地震がきても座屈や崩壊して建物が倒壊する恐れは少なくなっています。

甚だ簡単かつ、専門家の方から言わせれば間違っている部分も多いかもしれませんが、これが私がもっとも「なるほど」と納得した旧耐震と新耐震の違いです。

■旧耐震だからと言ってダメなわけではない。
もちろん、新耐震の方が確率としては安全でしょう。しかし、旧耐震の建物にも新耐震以上の耐力を持った建物もあり、それらは正確に耐震診断してみないとわかりません。ですから、旧耐震の建物だからと言っていたずらに恐怖する必要もありません。実際に私も旧耐震の建物からこのコラムをお届けしています。

(このコラムは2011年4月執筆したものです)

以下は、後日追記した同テーマのコラムです。

Facebookの "https://www.facebook.com/profile.php?id=1160455904 Manjo Shimaharaさんのウォールに興味深いエントリーがあった。以下転載。
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ツイッターにも書きましたが、東京カンテイ「Kantei eye vol.71」の「東日本大震災宮城県マンション被害状況調査報告」

正直ここまでとは。驚いた。
冒頭から「結論から述べれば、マンションの震災被害の度合いは、耐震基準よりも土地・地盤との相関性が高いと考えられる。」と。新耐震と旧耐震で、被災状況に差が出ていないのだ!

東京カンテイは阪神淡路大震災の時もマンションの被災状況を調査していて、それによれば兵庫県内2177棟の旧耐震マンションの大破は3.4%、中破は3.1%。だから旧耐震と言ってピロティとかでもない限りそうそう壊れてないだろうとは思っていたし、実際に震災後に何度か仙台を訪れた印象としても、地震の揺れで大きく損傷したマンションはそれほど多くないことは知っていた。

仙台市の竣工済みマンション1480棟を調べた今回の調査結果を引用すると、
■新耐震1233棟のうち
・損傷なし 630(51%)
・軽微   456(37%)
・小破   135(11%)
・中破    12(1%)
・大破    0(ー)
■旧耐震227棟のうち
・損傷なし 108(48%)
・軽微    75(33%)
・小破    40(18%)
・中破    12(1%)
・大破    1(0%)
※旧耐震の大破1棟は、最も揺れが激しかった(6強)の宮城野区の物件。大崎市、名取市など他の6強の地域にも旧耐震マンションはあったが、大破はゼロだった。

東京カンテイも結論づけているように、今回の地震でのマンションの被害は、耐震基準よりも地盤の良し悪しほうが相関性が高いことが証明された。

面倒なリプライが来るのでツイッターには書けないが、いまマンションを探している人が、地震を心配して旧耐震を選択肢から外すとしたら、まったくナンセンスと言える。ましてや、地震を理由に新築マンションしか検討しないとしたら「あら、もっったいない」では語りきれないくらいの残念さだ。

確かに、制震・免震マンションにはほとんど被害がみられない。が、そもそも超高層にするから免震を必要とするわけで、地盤のよい立地の中低層マンションなら、そんな余計なコストをかける必要もない。

同じ「Kantei eye vol.71」の第一特集「都道府県別 新築・中古マンション価格の年収倍率2011」では、全国平均の新築マンションが6.27倍に対して、中古マンションは4.32倍(いずれも70㎡換算)。東京都に限っては、新築9.43倍、中古7.35倍である。

マンションリノベ事業者の皆さん、「Kantei eye vol.71」読んで営業に役立て下さい。
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専門家に言わせると、地震の周波や型(直下型など)によっても結果は変わるそうだが、何はともあれ、こういったデータがあれば、旧耐震を選ぶこと=危険 ではないということが、冷静に判断できるというもの。一方で姉歯事件のように、新築であっても人的なリスクはあるわけで。

そして、こういった情報をほとんど出さずに、3.11の恐怖をネタに「旧耐震だから危ない、地震に弱い」、「免震だから大丈夫」などと「間違ってはないけど、全て正解じゃないよね?」というような情報を、さもそれが全てかのように触れ回り、新築を売ろうとするディベロッパーやメディアにみなさんが惑わされないことを祈ります。
なにしろ、日本は住宅が余りすぎていて、このままでは30年後は日本全国ゴーストタウンなんですから。

※1 しなります。